消費税改定に伴い運賃が変わります(未確定)

来たる令和元年10月1日より、消費税率の8%から10%への引き上げに伴い、タクシー運賃についても増税分を加味した新しい運賃が国土交通省より示されました。
当地、浜松交通圏は「準特定地域」なので、「公定幅運賃」として示されたこの消費税10%適用運賃について、「公定幅運賃変更届」を提出すれば、10月1日よりこの運賃を適用することができます。
しかし当社では、上記に「未確定」とある通り、この変更届を提出するか否かについて本稿執筆現在においては判断を保留しています。
なぜなら、現在のタクシー運賃には重大な問題があり、国の決定を唯々諾々と受け入れかねる現状があるからです。

問題点1:適正な利潤が得られていない

本日現在のタクシー運賃は、本体価格については平成19年に改定があったものの、以後は消費税率の引き上げに伴う税率分の転嫁による改定です。
つまり、本体価格については平成19年当時のものがそのまま適用されています。
(正確には後段で述べますが消費税率改定の度に本体価格が値下げさせられる構造になっています)


タクシーの運賃については、 道路運送法によって、【適正な利潤】を得ることが求められています。

タクシーの運賃制度について(国土交通省 PDF)

平成19年当時、当地静岡県の最低賃金は697円でした。
平成30年改定の静岡県の最低賃金は、858円。
(令和元年度は10月4日より885円となることが既に決まっています。)
平成19年から平成30年の、最低賃金の伸び率は123%です。

タクシー業は、その原価の大半を人件費が占めます。事業者の規模の大小により、内勤者の比率が異なる(大手ほどその比率は下がる)のですが、概ね60%以上が人件費です。

また、車両価格もモデルが変わるたびに引き上げられているなど、原価の殆どの項目で平成19年当時よりも値上がりをしています。

このような状況の中、「平成19年の運賃改定当時に【適正な利潤】を得る」ように計算された現行運賃は、現在の経営環境においては【適正な利潤】を得るどころか、事業者によっては赤字経営を強いられているのが現実です。

ですが運賃の改定については、「運賃ブロック毎に車両台数70%以上の事業者から申請があって初めて審査を行う」「70%を超えるよう事業者間で調整・協議をすることは独禁法に抵触する」という相反する法律の縛りにより、この10年以上の間、タクシー事業者は努力に努力を重ねて事業の継続を図ってきました。

しかしこのような状況をいつまでも続けることはできないため、いよいよ昨年、当地静岡運賃ブロック(伊豆を除く静岡県全域)でも運賃の改定申請が出され(平成30年8月1日)、平成30年10月10日には申請率が70%を超え、国土交通省によって改定の審査が正式に開始されました。
最初の申請日8/1を起算日として、3ヶ月後(10月末日)までに70%を超えたので、ここから5か月後(本年3月末)が標準審査期間であり、本来であれば本年4/1には改定の公示が出るべき状況です。
(正確には申請率70%を超えたら速やかに審査するということなので、3/10が標準審査期間満了日のはずです)

改定の申請にあたっては、本年10月1日には消費税改定があり、運賃改定の度に(それが本運賃であろうと消費税改定であろうと)タクシーメーター機の改修コストがかかることから、可能であれば一度に行いたいという希望をもっており、また申請が出された当時から、「同時での改定は可能」という見解が運輸支局より示されていました

しかし一方で「消費税8%時点での適正な利潤を加味した新運賃の公示」が出された後、すぐに消費税改定があるであろうことから、その時点では変更届を出さず、「消費税10%における新運賃の公示」を待ってから変更届を出すつもりで準備をしていました。決して業界側から「公示そのものを消費税改定に合わせて遅らせてくれ」と要望したわけではありません

しかし実際には国土交通省は本運賃の改定と消費税による改定の公示を同時に行うつもりだったのでしょうか、標準処理期間の満了日を超えてもなお、運賃改定申請に対する判断(公示)を保留したまま、8月30日を迎えることになりました。

ところが、去る令和元年8月30日の「物価問題に関する関係閣僚会議」において、「便乗値上げと捉えられる恐れがある」との理由でこの改定申請については「認めない」こととされ、消費税率引き上げ分のみの公定幅運賃の公示が出されました。(全国96の運賃ブロックの半数、48運賃ブロックにおいて当地静岡運賃ブロックと同様に本運賃の改定申請が出されており、これらは全て認められませんでした)

この閣僚会議について、議事録が公表されているわけではないので、誰がどういう趣旨でどういう発言をしたのかはわかりません。
しかし、 物価問題に関する関係閣僚会議の実施状況を確認すると、JR北海道は消費税増税と合わせて本運賃の大幅な値上げを認められています。
鉄道は便乗値上げではなくなぜ我々タクシー業界だけが便乗値上げだと言われなければならないのでしょうか?

また、今般の改定申請については「却下」はされておらず、「消費税増税と同時でなければ認める」「増税後一定期間が経過し落ち着いたころに公示を出す予定」であると思われますが、それは裏を返せば、現状が【適正な利潤】を得られていないことを国土交通省が認めていることに他なりません。

なぜ、【適正な利潤】が必要なのか

タクシーは、お客様の命を預かる事業です。もっと言えば、お客様だけでなく、道路を利用する全ての人の安全に影響を与える事業です。
そして、その安全を確保するために、様々な法律上の規制があり、またそれぞれの事業者が安全のための投資を行っています。

車両の整備が疎かになれば、重大事故が発生します
過去には3ヶ月点検を受けずに運行していたバスのタイヤが高速走行中に外れて痛ましい死亡事故が起きています。

乗務員の教育や健康管理が疎かになっても、重大事故が発生します。

従業員に対して、働きに見合った適切な賃金を支払うことができなければ、人手不足が進行し、そのシワ寄せは「頑張る従業員」にどんどん押し寄せ、過労による重大事故や、健康を害する恐れ、最悪の場合は自死に至るかもしれません。

そのような事態を招かないように、適正な利潤を得て安全に資する投資を積極的に行い、安定的な経営を通じて、お客様の安全を担保することが道路運送法によって定められているのです。

国土交通省の現在の対応は、道路運送法の主旨に背く

上記で述べた通り、今回提出されていた運賃の改定申請は、輸送の安全の確保のために必要不可避のものであり、決して便乗値上げではありません。
もちろん、値上げによりお客様に負担を強いることは、決して快いものではありませんが、安全確保のために伏してお願いをするつもりでおります。
「便乗値上げと捉えられる恐れがある」のは、運賃の改定が輸送の安全のために必要であることの説明をしっかりと行わないからです。(この説明義務は、我々事業者、国土交通省の両者にあるものです)
もっと言えば、今回の「物価問題に関する関係閣僚会議」において、果たして輸送の安全という観点からの議論がされたのでしょうか?単に増税に対する批判をかわす・痛税感を和らげるという考えしかないのではないでしょうか?

問題点2:正しく消費税が転嫁されていない

消費税5%へ増税する直前の初乗り運賃は初乗1.5km600円でした。
増税対応として、初乗りは距離を固定し金額を610円とされました。
600円が3%の消費税内税であるならば、税抜き価格は600/103*100で求められます。582.524円が当時の初乗り本体価格です。
610円を5%の消費税内税とすると、税抜き価格は610/105*100で求められます。580.95円・・・1.574円、本体価格を値下げさせられています。
お客様から預かっていない消費税を我々事業者が納めさせられている、ということです)

迎車料金は、現在130円頂いています。平成19年の運賃改定において、120円から130円へ10円の値上げをさせて頂きました。
当時は消費税5%でしたので、5%内税で130円=税抜123.809円です。
消費税が8%になったとき、130/105*108=133.714円となり、10円単位に端数が切り捨てられて130円で据え置きとなりました。
8%内税で130円=税抜120.37円です。ここでも迎車1回あたり3.43円、本体価格が値下げされており、結局はお客様から頂いていない消費税を納めさせられています。
迎車料金については3%税込120円が同じように5%税込120円に据え置かれたので、増税の度に毎回本体価格を値下げ(=消費者が払っていないはずの消費税を我々事業者に負担させる)というおかしな状態が続いています。

問題点3:本運賃の改定が「いつ」実現するか不明

先述のとおり、今般の運賃改定については、「却下」はされていないので、しかるべき時期がくれば認められるものです。
しかし、その時期は、いったいいつでしょうか?

メーター機の改修にはそれなりにコストがかかります。もし仮に11月、12月、あるいは年明け1月1日からの本運賃の改定が認められるのであれば、今回の消費税改定を敢えて見送り(増税分をお客様に転嫁せず負担して)、本運賃の改定に合わせてメーター機の改修を1回で済ませた方が結果として支出は少なく済みます。しかし半年・1年先送りとなれば、それまでの間の増税分を負担し切ることは不可能です。

消費税増税と同時だからダメ、なのであれば、ではどれだけ増税日と離れてば良いのか、その判断をセットで示して頂かないと、我々事業者は身動きが取れません。

そもそも、運賃の改定申請は昨年の8~10月にかけて提出されていますが、その申請の際に原価計算等に用いられたのは、申請の前年度、つまり平成29年4月1日~平成30年3月31日の実績値です。
その時点ですでに、適正な利潤を得られていないのにもかかわらず、標準審査期間を過ぎてなお改定がなされないのはまさに異常事態と言えます。